傘を貸したのは三年前だった。

急に雨が降り出した日に、傘を持っていない彩に貸した。「次会うときに返すね」と言って、彩は駅に向かった。

それが最後だった。

翌日、彩が事故で亡くなったと連絡が来た。突然のことで、しばらく現実として受け止められなかった。

傘のことは頭になかった。どうでもよかった。

三年が経った。

雨の強い夜、玄関のチャイムが鳴った。夜の十一時を過ぎていた。

ドアスコープを覗いたが、誰もいなかった。

チェーンをかけたままドアを少し開けた。

玄関前に傘が立てかけてあった。

水色の傘。私のものだった。持ち手に「田中」と油性ペンで書いてある。私の苗字。

雨に濡れていた。今夜の雨に濡れた、傘。

彩の家族に連絡した。傘は彩の部屋に保管されていたという。誰も触っていないという。

翌日、彩の家に確認しに行った。傘は彩の部屋のクローゼットの中に、きちんと仕舞われていた。

私の家の玄関には、あの水色の傘がまだある。