祖母の家には、開けてはいけない部屋があった。
廊下の突き当たり、古い引き戸。子どもの頃から「あそこには入るな」と言われていた。理由は教えてもらえなかった。「昔からそういうことになっている」それだけだった。
祖母が九十二歳で亡くなり、家の整理をすることになった。
片付けを任された私は、最後にその部屋の前に立った。引き戸に手をかけた。
開けた瞬間、冷たい空気が流れ出た。真夏なのに、肌に刺さるような冷気だった。
部屋の中は空だった。畳が敷かれ、床の間に古い掛け軸がかかっているだけ。
掛け軸には、墨で家系図が書かれていた。
見ていくと、自分の名前があった。父の名前、祖母の名前。その上に、知らない名前が何十も並んでいる。
一番上まで目を移したとき、気づいた。
家系図の一番上に、空白があった。名前の書かれていない欄が、一つだけ。
空白の横に、小さな文字で書いてあった。
「次」