そのビルで清掃の仕事を始めて三ヶ月が経った頃、主任から引き継ぎを受けた。
「三階のトイレの壁、毎朝確認してくれ。落書きがあったら消してくれ」
「同じ人が書くんですか?」
「それが……わからないんだ」
翌朝、三階のトイレに入った。個室の壁に、油性マジックで書かれた文字があった。
「助けて」
消した。完全に消えた。
翌朝、また同じ場所に同じ文字があった。
筆跡が全く同じだった。書き方も、文字の大きさも、位置も。まるでスタンプで押したように。
一週間続いた。毎朝消して、翌朝には現れる。
二週間目に、主任に聞いた。「いつ頃からですか、これ」
主任は少し間を置いた。「七年前から。私が入社した時にはもうあった」
「七年間?」
「誰が書いているのか、ビルのオーナーも警察に相談したことがあるらしい。でも結局わからなかった。カメラには誰も映っていなかったから」
その後、私は別の現場に異動した。三階のトイレの壁には、今も毎朝「助けて」と書いてあるのだろうか。