会社への通勤路に、古い踏切がある。

電車の本数が少ない路線だから、だいたい待たずに渡れる。でも朝8時頃だけは少し待つことが多い。

その踏切で、毎朝同じ女の子を見かけるようになったのは、転職して通勤路が変わってから一週間ほど経ったころだ。

ランドセルを背負って、赤い傘を持っている。晴れの日でも、いつも赤い傘。折りたたみじゃない、長い傘。

子供だから印象に残った。雨でもないのに傘を持って、いつも同じ場所に立っている。

最初は「雨女の子だな」くらいに思っていた。

ある水曜日のこと。踏切がなかなか開かなかった。電車が通った後も、遮断機が上がらない。どこかで電車が詰まっているらしく、しばらく待つことになった。

信号待ちをしながら、女の子の方を見た。

その日、女の子は踏切のすぐ横に立っていた。いつもより近い。顔が見えた。

おかしかった。

顔が、濡れていた。髪も、制服も、ランドセルも。全部びしょびしょに濡れている。でも空は快晴だった。

女の子と目が合った気がした。

その瞬間、遮断機が上がった。

渡りながら振り返った。

誰もいなかった。

後でその踏切のことを調べた。地元の人に聞いた方が早いと思って、近くの小さな定食屋のおばさんに話した。

「ああ、あそこね」とおばさんは言った。「昔、そこで事故があったの。随分前。子供が……」

それ以上は聞かなかった。

翌日から、少し遠回りをして会社に行っている。