引越して最初の朝から、彼女はそこにいた。
エレベーターのドアが開くと、すでに乗っていた。三十代くらいの、黒いスーツを着た女性。いつも同じ服装。いつも同じ時間。
「おはようございます」と言うと、軽く頷いた。声を聞いたことはなかった。
一ヶ月が経った。同じことが毎朝続いた。
ある朝、管理人と廊下で会った。雑談の中で、エレベーターでよく一緒になる女性の話をした。同じ階だから、すぐわかるだろうと思って。
管理人の顔色が変わった。
「この階の方ですか? どんな方でしたか」
黒いスーツ、長い髪、三十代くらいだと説明した。
管理人はしばらく黙っていた。それから言った。
「その方は半年前に退去されています。引越し先は聞いていません」
「でも毎朝……」
「301号室の前の住人の方が……その、事故で亡くなったのはその方の退去後のことで」
それ以上は聞かなかった。
翌朝、エレベーターのドアが開いた。彼女はいなかった。それからもずっと、いない。