解体前の建物調査は、淡々とした仕事だ。

傷み具合を確認して、写真を撮って、報告書を書く。感傷的になる暇はない。

その小学校は、過疎化で廃校になって五年が経っていた。校舎は思ったより傷んでいなかった。地域の人が定期的に掃除していたらしく、教室の中は比較的きれいだった。

二階の廊下を歩いていたとき、外から声が聞こえた。

子どもたちの声だった。笑い声、叫び声、何かを言い合う声。

窓から校庭を見た。誰もいなかった。

もう一度耳を澄ました。確かに聞こえる。

録音しておこうとスマホを出した。声は続いていた。

校庭に降りた。やはり誰もいない。声も消えた。

二階に戻ると、また聞こえた。

録音した音声を後で確認した。子どもたちの声は、はっきりと録音されていた。

地域の担当者にそれを伝えると、こう言われた。

「あの学校、最後の運動会の日に録音した音声を、毎年流していたんです。子どもたちの声が消えないようにって。でも機械は五年前に撤去しました」